日本の物語文学 第4章

伊勢物語

 前回は伊勢物語の「愛」が焦点だったが、本章は「旅」にフィーチャー。
 物語のよくある話型に『貴種流離譚』というのがあるそう。高貴な血筋の主人公が不運な事故・陰謀などで放浪の身となり、旅先で出会った人々を救ったり悪党を退治したりして、そこで豊かに暮らす、或いは元の居場所に戻る。というタイプの話。伊勢物語で業平が東下りをするのとか、光源氏が一時的に須磨・明石流離するのとかがそう。スサノオ高天原を追放され出雲でヤマタノオロチを退治するのもこの話型だし、義経もこれらしい(そういえば、こんなとこきとうはなかった!って清史郎くん叫んでた)。もっともこの二人は、ラストは不遇な死に終わるけれども。
 いろいろ考えたけど、もののけ姫のアシタカもぴったりこの話型ですね。


 まあこんな感じでいったん如意宝を手放しつつも、さらに良い如意宝を手にして輝くのが英雄のライフスタイルである、というお話。

 

 業平は情事のために都を立つことになる(自業自得じゃねーか)。この際、同じ『貴種流離譚』でも、自発的に旅立つのと強制的に旅立たせられるのと、二つのパターンがある。業平の場合は後者の感じが強いが、都に居られないから東に行くぜ! という勢いには自発的な気持ちが感じられなくもない。
 そして旅の途中、愛知県の三河あたりで詠んだのがこの歌。

 

 唐衣着つつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ

 

 この歌はちょっとすげえな! 
「かきつはた」という五文字を頭に据えてあるだけでなく、「衣・着る系」の言葉と「妻・旅」とか奥さんを残して旅に来ている系の言葉が掛けまくられている超絶技巧歌。そして愛知出身の友達にこの話題を振ったらふつうに知ってて余計びびる。これ、学校で習ったかなあ?

 隅田川で詠んだ方の句は

 

 名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人は有りや無しやと

 

 これも有名な歌。旅先でもそう簡単にちょろい女が現れないのは伊勢物語が峻厳な世界認識を持っているからだとかなんとか。三七三三人の女と遊んどいてよく言うよな。

 

 

 まあでも、よくある好色男系の話かと思いきや、かきつばたの歌でがらっと印象かわったなー。そりゃ名作になりますね。伊勢物語源氏物語と違って「給う」の尊敬語が少ないので読みやすいんだって。まあ気が向いたら読んでみよう。東下りの部分くらいは。